
※以前別のブログで書いた文章をそのまま掲載しています。
特集「日本民俗学の研究動向(2012-2014)」の口承に関することである。
基本的には口承文芸に関するレビューだけれど、それを著者自体が否定している。飯倉氏は常にカッコに入れて、つまり、判断を保留して「口承文芸」という語を用いている。
「確かにかつての『口承文芸』は、二〇一〇年代現在その伝承が弱まっている。しかし、途絶えたわけではない。丹念なフィールドワークにより、地域の『口承文芸』を掘り起こした資料も刊行されている。(略)フィールドワークはかつてのように円滑で豊潤な正価を上げられる営みではないかもしれないが、決して『口承文芸』が途絶えたわけではないのだ」(84p)
この現代の「口承文芸」については、従来の口承文芸に加えて、観光や教育などの場で行われている説話を学んで語るという語り手も「口承文芸」研究の対象として捉えられているとしている。飯倉氏も挙げているとおり、遠野の語り手は、その嚆矢とされている。
「口承文芸」への留保については、末尾に飯倉氏の考えが記されている。
「大きく変化している口承文芸研究の領域は今後、柳田國男に始まり、説話文学の進展とともに発展した、説話の物語性を重視する『口承文芸』研究と共に、口頭伝承の持つ、『擬似的な声』までも包括する、声とことばのコミュニケーションの側面を重視していかざるを得ないのではないだろうか。『口承文芸』を拡張した『こえとことばの民俗文化研究』へ。そうして、その準備は二〇一二~二〇一四年の研究動向を振り返るとき、すでに整い始めているように思われるのである」(89p)
「こえとことばの民俗文化研究」とあるが、これはおそらく民俗学史に重なっていく領域になるのだろうと思う。口承研究だけではない。聞き書きという方法論を持つ、日本民俗学すべてに関係する話題だと思う。だからこそ、思う。それははたして「口承」の領域なのか、それは「口承文芸」研究を却って緩やかに終わらせるためのものになるのではないか。