
※以前別のブログで書いた文章をそのまま掲載しています。
沼津市歴史民俗資料館には、国指定の有形民俗文化財「沼津内浦・静浦及び周辺地域の漁撈用具」がある。それらの資料を中心にした企画展をやっていて、それを見に行った際に買い求めたのが本書である。
解説によれば、足立氏は漁に従事した後に、長年しず浦漁協に勤めた方だそうだ。お生まれ年は正確にはわからないが、昭和一桁の頃、小学生だったらしい。足立さんの話を資料館の職員が口述筆記したものを資料館だよりに連載しており、本書はそれを再編集したものだそうだ。
足立さんの話は、漁法から漁協の歴史、漁業の変遷、村々の争いなど、多岐に及ぶ。漁法と養殖の変遷についても興味深かったが、読んでいて面白かったのは料理の話である。ところどころに漁村の食について記されているが、後半にそれらの話が多いように思われる。足立さんが語った年代順に編纂されているとのことなので、後年になって身近な生活の話をし始めたのだろうか。
「漁村の魚料理は、栄養満点だった」(p112-113)は、まさに食を中心に据えた話になっている。
「漁師が船上で食べる料理には、マカセ網でとったマグロを選び、ナタみたいのでぶつ切りにしたものがあった。特に、ビリビリと生きている感じの部分が甘く、餅のようにふわふわとしていて、おいしかった。マグロと違って、カツオはある程度時間が経って、鮮度が落ちた頃がおいしかった」
食べてみたい、と思わずにはいられない。カツオについての記述も「そうなのか!」と感じさせられる。これは偏見なのだろうが、漁師の人たちは食事の話を本当にうまそうにする。 以前漁師の方から聞き書きをしたとき、船上での慌ただしい食事の話を聞いた。慌ただしく、また苦労話であるはずなのに、なぜか非常に心引かれたことを覚えている。
足立さんはどんな人なのだろうか。その語り口、出で立ち、リズム……いずれも編集者の手により、漂白されてしまっている。
足立さんがご存命であれば、ぜひ話を伺いたい。もしすでに「向こう側」の住人となられているようなら、せめて彼が語ったテープを聴いてみたい。