4月4日(日曜日)、郡山市で「桜を読む会」を開催いたしました。今回は、本語りの会初の郡山市開催&随筆を課題作品にした読書会でした。

今回の課題図書は、課題図書1:寺田寅彦「春六題」と課題図書2:夏目漱石「京に着ける夕」の二本立てでした。
寺田寅彦の「春六題」は、物理学者であり、俳人である寺田らしく、科学的な知識と比喩的な表現が、きわめて絶妙なバランスで成り立っているエッセイでした。タイトルどおり、6つの掌編からなる短編集です。
・3章と6章が好き。6章末が文学的。
・科学的。新芽を宝石に例えるあたりは独特。
・結構適当に書き飛ばしている気がする。当時はかえって今よりも科学的な時代だった。
などの意見が出ました。なお、6章末の一文は、こんな一文でした。
庭の日かげはまだ霜柱に閉じられて、隣の栗の木のこずえには灰色の寒い風が揺れているのに南の沖のかなたからはもう桃色の春の雲がこっそり頭を出してのぞいているのであった。
寺田寅彦「春六題」 https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2440_10298.html より
こんな事を始めて気づいて驚いている私の鼻の先に突き出た楓の小枝の一つ一つの先端には、ルビーやガーネットのように輝く新芽がもうだいぶ芽らしい形をしてふくらんでいた。
夏目漱石「京に着ける夕」は、夏目漱石の私小説風のエッセイとなっております。
・最後の一句をどう読んだらいいのか
・旅行記のような体裁が印象的。
・冒頭の一文が印象的だった。
・おぞましいと思うほどの表現と、物事に対する遠近感のバランスに驚いた
・赤いちょうちんの色表現と、それが持つ作品上の効果が気になった
上記のような感想を交換しました。わたし自身も冒頭の一文が印象に残っております。
汽車は流星の疾きに、二百里の春を貫いて、行くわれを七条のプラットフォームの上に振り落す。余が踵の堅き叩きに薄寒く響いたとき、黒きものは、黒き咽喉から火の粉をぱっと吐いて、暗い国へ轟と去った。
夏目漱石「京に着ける夕」 https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/777_43437.html より
わたしは掌編の読書会をする前には、作品を音読してから挑むことが多いのですが、この作品はいままで音読してきた作品のなかでも屈指の「気持ちよさ」を誇る作品でした。
どちらの作品もとても短い作品ですので、未読の方はぜひ読んでみてください。