
「『疲れている』から、成果が出ないのです」(14p)
疲れていると効率が下がる。誰もがわかっていながら、それでいて避けることのできない疲れ。それをいかに調整し、調子の良い状態を維持するか。グーグルで実践されている方法を紹介したのが、この本である。
調子の良い状態、つまり「生産性」を高めるために、グーグルでは、次の4つのエネルギーのコントロールするための取り組みを進めているという。
「体のエネルギーphysical energy」
「感情のエネルギーemotional energy」
「集中のエネルギーmental energy」
「生きることの意義からくるエネルギーspiritual energy」(p16-17)
上記の4つのエネルギーコントロールを総称して、「Managing Your Energy」と表現している。邦訳はなかったが、なんと訳したら適切だろうか。本書を読む限りでは、「エネルギー管理法」とでも訳してみたいが、果たしてどうだろうか。
上述のとおり、この方法は「生産性」を高めるための手段である。正確にいうと、生産性の高い状態を維持するための方法であるらしい。その状態を「フロー」と呼んでおり、そのための要件が示されている。17の要件が示されているが箇条書きにするとわかりにくいものも多い。ここでは、著者自身のまとめを引用してそれに代える。
「時間だけでなく、自分の集中力・エネルギーに合わせた仕事の仕方を考えよう」
「新しいことをするためにもルーチンは持っておく」(66p)
カタカナで示されている「フロー」は、日本語として考えるとよくわからない。和製英語でのフローと捉えると、意味が通じない。
ウェブ上の辞書を見ると、流れは流れでも、よどみない流れを指すらしい。適切に翻訳できないが、日本語で考える
ならば、こんこんと湧き出る泉をイメージすると良いのかもしれない。
このあとは、「フロー」の要件を個人/組織に分けて詳細に検討していく。私は個人のフロー要件について、興味があったらしく、そちらを中心に抜き書きしている。それは前述した「新しいことをするためのルーチン」にも関わることである。
筆者は「新しいことにチャレンジするために、あえて『ルーチン』をつくる」(61p)べきだという。それは、「積極的にチャレンジするためには、心理的安全性が不可欠」だからだ。チャレンジには疲れが伴い、それを緩和するためには「心地良いと感じるルーチン」が有効だという(77p)。それはお気に入り、行きつけのレストランや喫茶店、服を作る程度のことで良いと述べられている。
チャレンジとルーチンとの往復運動は、「スプリント」である。「スプリントでメリハリをつける」(82p)という言葉が、小見出しに利用されていた。「スプリント」は、次のように説明されている。
「スプリントとは、ずっと仕事を続けるのではなく、ある仕事について集中する時間を決めて作業を来ない、その後しっかり休息をとるという、メリハリのある働き方のことです」(82p)
具体例として、90分を基準とした作業の細分化が例示されていた。90分作業を行ったら、10分ないし15分程度の休息を行うことを繰り返すことが推奨されている。これだけなら「スプリント」=メリハリと言ってしまえそうだが、以下の点で差別化されている。
「作業の目標と最低限のアウトプットを決める」
「90分で終わるタスクの細分化」(p86-90)
まさに「スプリント」、短距離走のイメージだ。適切な短距離にゴールを設定し、走り抜く。スプリント(作業)とインターバル(休息)との繰り返しにより、前に進もうとするものらしい。長距離走は無理が生じやすく、疲労が蓄積しやすい。疲労の回復までは、働きが低下し続ける。それならば、短期の作業による軽度の疲労を確実なインターバルにより消化してしまった方が良い、ということなのだろう。
思い出すのは、下園壮太の「疲れ」に関する考え方だ。例によって抜き書きをはじめる前の読書なので正確に抜けないが、「疲れがたまればたまるほど、回復のためには時間を要する」ということを述べている。下園氏によれば、疲れがたまっているとより疲労が蓄積しやすい状態に陥り、負の連鎖が始まるという。
下園氏の疲れの三段階をあわせて考えれば、「スプリント」が推奨される理由もわかる気がする。