北塩原村(福島県耶麻郡)にある諸橋近代美術館にいってきました。
以前から興味のあった美術館で、サルバトール・ダリのコレクションがある私立の館であることは知っていました。ただ、冬季の休館があることもあり、なかなか行く機会がありませんでした。GWとはいえ、緊急事態宣言や蔓延坊措置の対象地域に行くわけにもいかず。せめて近隣県の館へ、ということでいってきました。
場所は五色沼の近く、高原リゾート地域とでもいうべき地域の一角にあります。建物自体が美術作品のようで、なんとなく「金田一少年の事件簿の舞台みたいだな」と思いました。
展示室は常設展示を行うホールとその突き当たりにある展示室、またホールに並行に連なる三連の展示室で成り立っています。この3部屋続きの展示室で、企画展を行っているようです。
前回、藤田記念博物館のときも書いたのですが、美術や美術史はまったくわかりません。ダリにしての「変なヒゲのおじさん」くらいの解像度です。きっとぶっ飛んだ人なのだろう、と。
展示は、展示室の構成上、常設展示ホールと突き当たりの展示室から観ることになります。ホールに展示されているのは、ダリが制作した立体造形物の展示です。素材はおおむねブロンズで、一言でいえば奇妙な形をしたものが並んでいました。それがなぜ芸術なのか、わたしにはよくわかりませんでしたが、眺めている分には非常に愉快な気分になりました。
わたしが興味を持ったのはむしろ作品を彩るものとして引用されているダリのことばでした。写真撮影ができなかったことと、時間が限られていたので、抜き書きもしませんでしたが、自伝からの引用のようです。
企画展示は、「ショック・オブ・ダリ」、ダリの衝撃というタイトルで、ダリが主に日本の作家たちにどんな影響を与えたのかを見せる展示でした。三部構成で、一部がダリの作品、二部・三部にダリやダリに影響を受けた作家の作品を展示していました。
一部の展示で良かったのが、冒頭の肖像などの絵画でした。展示ホールで散々理解のできないものを見せられた後に、写実的な肖像画の配置はなかなかギャップがあって良かったです。ただ、訳のわからないことをしている訳ではない、と。
ここではダリの特徴的な技法が紹介されていました。それは「偏執狂的=批判的方法」と呼ばれるものだそうですが、今回の展示を見ただけではよく理解ができませんでした。その結果、生み出された手法である「ダブル・イメージ」と、描かれているものがこだまのように繰り返される手法については、作品を観て理解することができました。
「ダブル・イメージ」は、描かれたモノが二通り以上の見方ができるように対象を描くものです。たとえば、今回展示されていた「姿の見えない眠る人、馬、獅子」(1930年 ポーラ美術館蔵)では、中央に描かれた裸体の婦人が、横たわる馬にも見えます。また、馬の尾にあたる部分が獅子の頭にも見える作品で、描かれたモノに複数のイメージを与えています。
作品の解釈においてではなく、作品の制作段階において、複数の見方が内包されているというのは、非常に新鮮でした。
もう一つの手法、「こだま」については、曖昧な理解しか得ることができませんでした。作品に描かれているモノの形状を、何度か繰り返して画面を構成しているということのようですが、文字だけで表現することはできそうにありません。
後半のダリが日本の作家に与えた影響については、一目見て理解できるくらいに類似した作品が多かったです。これらの作品から、ダリがひとつのモード(流行)となっていたことがわかります。ダリが日本に紹介される過程を含めて展示されていたのは、門外漢には親切な作りでした。
展示を見る前には、「きっとぶっ飛んだ人」という印象でしたが、展示を見てみると数々の奇行や不思議な作品も、実は真摯に表現と向き合った結果なのではないか、という気がいたします。
北塩原村は、避暑地としてはとても良い場所のように思います。有名な観光地である五色沼からも近い場所にありますので、お近くに行った際にはぜひ立ち寄ってみてください。